【論文要約】Human Capital, Asset Allocation, and Life Insurance

今回は、Peng Chen, Roger G. Ibbotson, Moshe A. Milevsky, Xingnong Kevin X. Zhuによる論文、”Human Capital, Asset Allocation, and Life Insurance“について紹介します。

本論文では、①資産運用ポートフォリオを構築に人的資本を考慮しなければならないこと、②生命保険の加入についても人的資本を考慮しなければならないことに着目し、資産配分と生命保険の意思決定を同時に行うフレームワークを開発しています。

人的資本と金融資産の関係(先行研究)

大前提として、人間が持つ資産には金融資産と人的資本の2つがある
ここでいう人的資本は、投資家の将来の労働所得の現在価値として定義しており、金融資産のように売買できるものではないものの、投資家が持つ大きな資産である。

一般的には、若い人はそれまでの蓄財する期間が短く、将来の労働期間が長いため、金融資本よりも人的資本の方が大きくなる。一方、高齢の人は人的資本よりも金融資産が大きくなる。

資産運用ポートフォリオと人的資本の関係

従来の研究において以下のことが理論建てられている。
① 若い人は高齢の人よりも株式に投資する(リスクをとった運用をする)
② 安定した人的資本を持つ人は、多くを株式に投資する
③ 株式市場と労働所得が高い相関性を持つ(株式の市況と所得が連動する)人は、リスクの低い資産に投資する
④ 労働供給を調整する能力(すなわち高い柔軟性)も、投資家の株式への配分を増加させる

生命保険と人的資本の関係

多くの先行研究において、生命保険の需要と人的資本の不確実性は明確に関連することが示されている。

たとえば、Campbell(1980)は、多くの人によって、人的資本の不確実性が資産運用収益の不確実性を上回るとし、人的資本の不確実性に基づいて、加入すべき最適な保険金額に関するモデルを開発した。

さらに、Ostaszewski(2003)は、生命保険は人的資本を金融商品化したものであり、個人の人的資本の不確実性への対策であるとしている。

モデル

主な前提条件

・ 生命保険は1 年更新の定期保険とし、保険料が保険期間の初めに支払われる
・ 1年以内に死亡した場合、保険会社は額面金額を受取人に支払う(被保険者は額面金額を受け取る)
・ 保険は毎年更新可能である
・ 個人の資産運用は無リスク資産とリスク資産で配分する

目的と手段

個人の目的は、生存した状況と死亡した状況における全体的な効用を最大化することである。
つまり、下記の値を最大化させることである。

(個人が思う)1年間の死亡確率 × (1-遺産動機) × 1年後の資産(生命保険の加入金額を含む )の期待効用 +
(個人が思う)1年間の生存確率 × 遺産動機 × 1年後の資産(人的資本の現在価値を含む )の期待効用

ここでの1年後の資産は、不確実性を含む資産運用のリターン、不確実性を含む1年間の労働収入、生命保険加入による保険料の出費などを加味する。

全体的な効用を最大限高めるために、個人は定期の生命保険の加入金額(額面額面)と、無リスク資産とリスク資産との資産配分を決定する

ユニークポイント

① 人的資本をモデルに組み入れることで、資産配分の決定と生命保険加入の決定を1つのモデルとしている
② 遺産動機が資産配分と生命保険の加入額に与える影響を考慮している
③ 人的資本の不確実性と金融市場との相関をモデル化している
④ 主観的生存確率(死亡確率)もモデルに組み入れている

検証したこと

人的資本、資産配分、生命保険の加入額の生涯推移

年齢を重ねるにつれて、人的資本が小さくなる
これは、高齢になると残りの労働年数も少なくなるためである。

年齢を重ねるにつれて、リスク資産への配分は投資家が減少する
これは、高齢になると人的資本が小さくなるためである。

年齢を重ねるにつれて、年齢を重ねるにつれて生命保険への加入金額は減少する
これは、保険加入の主要因が人的資本のヘッジであり、高齢になると人的資本が小さくなるためである。

遺産動機の強さ

遺産動機(相続人に対する関心)が強くなるにつれて、生命保険への加入金額が増加する
これは、遺産動機が強い人ほど人的資本の消失をヘッジするために、より多額の生命保険を加入する動機があるためである。

遺産動機は資産配分にほぼ影響しない
これは、資産配分はリスク許容度と人的資本によって決まるということを示している。

リスク許容度

リスク許容度が低いほど、無リスク資産への配分が増加する
これは、リスク許容度が低い人はリスク資産への投資よりも無リスク資産への投資する方が効用が高くなる古典的な研究と同じ結果である。

リスク許容度が低いほど、生命保険への加入金額が増加する
これは、保守的な人は無リスク資産に多く投資し、生命保険に多く加入すべきであることを示している。

金融資産

金融資産が増加するほど、無リスク資産への配分が増加する
人的資本は無リスク資産に近いリスク特性である。
富(金融資産+人的資本)全体の配分を適正な配分とするため、金融資産が増加するほど、無リスク資産への配分が増加する。

金融資産が増加するほど、生命保険への加入金額が減少する
これは、金融資産が増加するほど人的資本の消失が相続人の効用に与える影響が小さくなるためである。

賃金の成長率と株式の収益率との相関

賃金の成長率と株式のリターンの相関が高くなるにつれて、無リスク資産への配分が増える
これは、人的資本と株式市場の相関が高くなると、ポートフォリオ全体(人的資本+金融資本)の分散効果が低下し、このリスクを減らすために無リスク資産への配分が増加するためである。

賃金の成長率と株式のリターンの相関が高くなるにつれて、生命保険への加入金額が減少する
金融資産と人的資本の相関が高まるほど、遺族にとっての人的資本の価値は低くなり、生命保険への加入金額が減少する。

まとめ

今回は、人的資本に着目し資産配分と生命保険の意思決定を同時に行うフレームワークを構築した論文”Human Capital, Asset Allocation, and Life Insurance“について、まとめました。

この記事が皆さんの参考になれば嬉しいです。